カレンダーに戻る

 報  告

 2022年度第1回研究会 

 

2022年度第1回研究会が2022年8月2日(火)13:30より,Zoomを利用してオンライン開催された.コロナウイルス感染拡大が続く最中であり,対面での現地開催は見送られた.テーマは「ダイヤモンドの電気化学・バイオ応用(1)」と設定され,3件の講演で構成された.以下に講演内容をまとめる.

はじめに,東京理科大学の近藤剛史氏からチュートリアルな内容も含んだ講演として,「ダイヤモンド電極の基礎」について解説,話題提供がなされた.まず,ホウ素を添加したダイヤモンド(BDD)の特性として,水系・非水系電解質中で電位窓が広いこと,バックグラウンド電流が小さいこと,耐食性に優れること,有機物の吸着が起きにくいことなどが示された.これら特性の組合せとして大きなシグナル/バックグラウンド比が得られ,電気化学的に高感度かつ安定した検出や,効率的なOHラジカルの生成が可能になることから,高感度で応答性の高い電気化学センサ,高効率な電気分解用電極としての応用が期待されて研究開発がなされていることが解説された.そして,近藤氏らが取り組んでいるBDD粉末の応用研究について紹介がなされた.BDD粉末はダイヤモンド粉末基材表面にCVD法でBDD層を成長させて作製されたものであり,BDD層は比較的高い導電性を示す.BDD粉末の粒径は制御が可能であり,このインクを利用することにより多様な印刷電極,塗布型電極が低コストで作製できるようになって応用の幅が広がる.例として,スクリーン印刷ダイヤモンド電極,硫酸電解用塗布型ダイヤモンド電極,水系電気二重層キャパシタの研究成果が紹介された.

続いて,慶應義塾大学理工学部の緒方元気氏に「ダイヤモンドマイクロ電極を用いた生体内薬物の電気化学検出」と題してご講演いただいた.生体に投与された薬物が臓器など体内の局所的な細胞集団に届いているかどうか,またその濃度がどのように増減するかをリアルタイムで測定することは,その薬物の効果や有害事象のメカニズムを理解するうえで重要である.本講演では,針状のダイヤモンドマイクロ電極を用いた電気化学検出により,生体中での薬物濃度測定の試みについて解説していただいた.測定に用いたダイヤモンドマイクロ電極は先端径が40μmの針状になっており,電解還元電流によりリアルタイムで薬物濃度を測定することができる.一方,同時に先端径1μmのガラス微小電極を用いて電気生理計測を行うことにより,薬物濃度と臓器などの働きを同時に観測することができることが説明された.ループ利尿薬であるブメタニドは有害事象として難聴を惹起することが知られており,そのメカニズムを本薬物モニタリングにて検討した.モルモットの内耳蝸牛にダイヤモンドマイクロ電極およびガラス微小電極を挿入し,ブメタニド濃度および内耳電位を同時測定したところ,ブメタニド投与後,内耳での濃度上昇に伴い,内耳電位の低下が見られた.このことから,薬物による細胞集団の活性阻害に基づく難聴であることが確かめられたと説明された.さらに,ラット脳内における抗てんかん薬ラモトリギン濃度と局所電場電位による神経活動の同時モニタリングや,モルモット内耳蝸牛と大腿薄筋からのメチルコバラミン(ビタミンB12)の同時計測についても測定例が報告された.このような生体内の薬物濃度と生体機能の同時モニタリングの開発は,効果的な薬物投与やドラッグ・リポジショニングへの展開に役立つものと期待される.

最後に,ジーエルサイエンス株式会社の真野茉莉氏に「ダイヤモンド電極を用いたHPLC─電気化学検出(ECD)」と題してご講演いただいた.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)において分析対象成分を検出する検出器の一種として電極上での酸化・還元電流の計測を利用した電気化学検出器(ECD検出器)がある.ダイヤモンド電極はその最も汎用性が高い作用電極として利用されていることが紹介された.はじめに,HPLCにおける物質分離の原理と基本的な装置構成についてわかりやすく解説いただいた.次に,各種検出器の比較から,ECD検出器の特徴や用途について説明いただいた.最も使用頻度の高いUV-VIS検出器と比較して,酸化還元活性を有する目的物質を検出する際,ECD検出器では,夾雑成分の除去などの前処理が不要となる場合があること,10〜100倍の検出感度を示す場合があることが説明された.グラッシーカーボン電極や金電極などと比べて,ダイヤモンド電極は印加できる電位範囲が広く,再現性やメンテナンス性に優れることから,カテコールアミンおよびその関連物質やアミノ酸などの分析に有用であることが説明された.ジーエルサイエンス社のECD検出器の作用電極としてダイヤモンド電極が最も多く選択されているとの紹介もあり,ダイヤモンド電極のさらなる普及と幅広い分野の研究開発への貢献が期待される.
参加は講師を含めて30名であり,ネットワークの障害などが生じることもなく,安定した環境のもとで開催された.第2回研究会は「ダイヤモンドの電気化学・バイオ応用(2)」と題して9月下旬〜10月上旬に開催予定であるとのアナウンスで締めくくられた.快く講演を引き受けていただいた講師の方々にはこの場を借りて,厚く感謝を申し上げます.

近藤 剛史(東京理科大学)

平田  敦(東京工業大学)

 

▲ Top ▲