カレンダーに戻る

 報  告

 平成29年度第1回研究会 

 

平成29年度第1回研究会は,「ナノカーボン材料の構造制御と電気化学」と題して,平成29年6月28日(水),東京大学駒場Uキャンパスにて参加者22名を得て開催された.炭素材料は多様であり安定かつ複雑な構造をとることができる.それゆえにさまざまな機能をもつ材料を創製することができるが,一方でその構造の制御や解析は容易ではない.本研究会では,ナノカーボン材料の「構造」と「機能」に関する講演をしていただき,これらの関連から炭素材料への理解を深めることを目的とした.

はじめに,信州大学環境エネルギー材料科学研究所の金子克美氏に「ナノスケールカーボン細孔の特異な機能」と題して講演いただいた.まず,単層カーボンナノチューブ(SWCNT)など,ナノスケールカーボンのナノ空間では,相対する壁と空間内の分子との相互作用ポテンシャルが重なり合い,非常に深いポテンシャル場が形成されることが説明された.六角炭素原子網目面(グラフェン)は原子の面密度が大きいため,特にその効果が顕著である.例えば,SWCNTの空間内では,常圧以下の環境においても硫黄原子が金属的に振る舞う一次元原子鎖結晶を形成することが示された.このことは,SWCNT内の硫黄が90万気圧以上の高圧で圧縮されている状態に相当するとのことであった.その他,水蒸気吸着等温線を用いた疎水性カーボンナノ空間中への水分子の充填機構に関する研究,爆轟ナノダイヤモンドのペレットが著しい吸水性を示す現象に関する研究,カーボンナノ細孔におけるイオン液体の特異な配列構造に関する研究など,興味深い話題が提供された.

続いて,東京大学大学院工学系研究科の小森喜久夫氏に「カーボンナノファイバの電気化学バイオセンシングへの応用」と題してご講演いただいた.グラフェンエッジが露出したカーボンナノ材料としてカップ積層型カーボンナノファイバ(CSCNF)を作製し,その優れた電子移動反応特性を利用した電気化学バイオセンサに関する研究を行っていることが説明された.エッジが豊富に露出したCSCNFを用いた電極と,主に基底面が露出しているSWCNTを用いた電極を比較したところ,CSCNFのほうが表面に固定化した西洋ワサビペルオキシダーゼ(過酸化水素を還元する酵素)からの直接電子移動が速いことがわかった.また,CSCNFを表面改質することにより特性を制御できることも説明された.最後に,ヒスタミン脱水素酵素修飾CSCNF電極を用いて,細胞培養液中のヒスタミンを電気化学的に検出できることが示され,CSCNFが電気化学検出に基づく細胞デバイスのための優れたプラットフォームになり得ることが説明された.

休憩をはさんで,千葉大学大学院工学研究院の山田泰弘氏に「ナノカーボン材料の欠陥構造解析」と題して講演いただいた.一般に炭素材料はさまざまな種類の官能基や欠陥も含めて複雑な構造を取り得るため,詳細な構造解析が困難である.そこで,モデル材料を用いたX線光電子分光法(XPS)などの分光分析データと計算化学を用いたシミュレーションを組み合わせることによる炭素材料の構造解析に関する研究に取り組んでいることが説明された.黒鉛(HOPG)にダイヤモンド粒子を埋め込んだサンプルについてXPS測定を行い,一方で計算化学を用いて検討した結果,sp3-CのC 1sピーク位置は,sp2-Cのそれと同じかあるいは低エネルギー側になるという,従来の報告と異なる結果が得られたことが説明された.また,含酸素官能基由来のC 1sのピーク位置や欠陥(五員環,七員環)による半値幅への影響などについて検討結果が紹介された.このほか,エッジ構造に特徴的なラマンスペクトルのピークが得られたこと,グラフェンやフラーレン上の含酸素官能基を加熱した際に起こる反応の遷移状態を計算することにより,生成する官能基を推定できたことなどについて報告があった.

最後に,群馬大学理工学府の尾崎純一氏に「固体高分子形燃料電池用カーボンアロイ触媒」と題してご講演いただいた.まず「カーボンアロイ」の概念に関連して,炭素材料にsp2以外の結合様式をもつ炭素原子や異種原子を導入することで,新しい機能を発現できることが説明された.カーボンアロイ触媒であるナノシェル含有カーボン(NSCC)は,乱層構造により積層した炭素網面のナノシェル(NS)とアモルファスカーボンからなることが説明された.X線回折の解析によりNSの発達程度を表すパラメータfsharpが求められ,NSCCを電極触媒とする酸素還元(ORR)反応において,fsharpが触媒活性の支配的な因子になっていることが解説された.高いORR活性を示すNSCCに見られる湾曲網面のモデルとして,ナノダイヤモンドから得られたオニオン状カーボンを利用した例も紹介された.また最近,非常に高いORR活性をもつカーボン触媒の開発に成功しており,これをカソード触媒とする固体高分子形燃料電池(PEFC)単セルを作製し,純酸素ではなく空気を用いても十分な発電性能を示したことが紹介された.

講演会では質疑応答も活発になされて盛会となったが,その後の懇親会も13名の参加者を得て,意見交換や議論が続けられた.

最後に,講演をご快諾いただいた講師の先生方に厚く御礼申し上げます.

近藤 剛史(東京理科大学)

 

▲ Top ▲