カレンダーに戻る

 報  告

 平成24年度第2回研究会 

 

平成24年10月19日(金)13:30より,東京工業大学大岡山キャンパス石川台3号館にて「平成24年度第2回研究会」が開かれた.テーマは「機械応用を模索するナノスケールカーボン粒子の動向―ナノダイヤモンド・フラーレン―」であり,本年度第1回研究会に引き続いてナノカーボンが取り上げられた.ナノスケールのカーボン粒子として数例ではあるがすでに機械応用がなされているナノダイヤモンドとフラーレンについての現状,今後に期待される適用分野での研究動向が話題の中心とされた.素材おのおので供給メーカ・大学1件ずつの組合せで講演は構成され,講師4名を含めて総計29名の参加者があった.研究会での講演内容を以下に簡単にまとめる.

前半部はナノダイヤモンドに関連して,株式会社ナノ炭素研究所の佐々木修一氏による「爆轟法ナノダイヤモンド生産現状とその性質」と題した講演で始まった.爆轟法で生成されるナノダイヤモンドが1桁ナノサイズ粒子に分散されてから10年が経つが,さらに真の大きさの一次粒子を得るため,プロセスの見直しがなされている.従来ジルコニアビーズを解砕メディアとする湿式摩擦粉砕により水溶性コロイド溶液を得ていたが,その過程でビーズミリングと超音波処理を同時に行うことにより解砕時間の短縮を可能にしたとのことである.そしてタグチメソッドを適用してプロセスの最適化を図った結果,ナノダイヤモンド粒子の一次粒子径は約3.0nmにまで減少するとともに,ジルコニア由来の不純物の混入も抑制され,安定なコロイド分散体を得る段階に達したことが示された.合わせて,コロイド溶液の特異な電気特性について調べた結果の紹介がなされた.

次に,長岡技術科学大学物質・材料系の松原浩准教授から「ナノ粒子の複合めっき〜ナノダイヤモンドのめっきへの応用」と題して,複合めっきの基礎的事項の解説から,講演者がこれまで行ってきたナノダイヤモンド複合めっきに関する一連の基礎研究結果がまとめられた.まず研究初期にはナノダイヤモンドを多量に共析させるのは非常に困難であったことから,ナノ粒子全般の複合めっきにおいて重要な因子を見直した結果,粒子と析出フロンティアの親和性および粒子と金属イオン(錯体)の親和性が高いことと,ダイヤモンド粒子の表面状態の制御が重要であるとの認識に至ったとのことである.そして,クエン酸錯体からの無電解Niめっきを行うことによって14%もの高析出量を実現し,TEM観察によるとナノダイヤモンド粒子は一次粒子として分散していることが確認されることを示した.続いてナノダイヤモンド複合めっき膜の耐摩耗性,潤滑性,離型性などが期待される特性であり,今後の詳細な評価が必要となることが指摘された.

休憩後の後半部はフラーレンに話題を変え,まずフロンティアカーボン株式会社の有川峯幸氏が「フラーレンとその応用―最新の動向について―」と題して講演した.同社からは純度や誘導体化の点で多様な特性のフラーレンが供給されている.その応用は,ゴルフクラブ・ラケット・ボーリングボールのスポーツ分野,オイル添加剤の潤滑分野など比較的早くからなされていた分野に加えて,ラジカル捕捉性を生かした化粧品,高い電子受容性を生かしたn形有機半導体材料,有機・無機の中間的な特性を生かしたCFRPへの添加剤などへと広がりを見せているとの紹介がなされた.特に現在では有機薄膜太陽電池のアクセプタ材料として研究が盛んに行われ,フラーレンおよびその誘導体が良好な特性を示すことから注目されているとのことである.

最後に大阪大学大学院工学研究科の高谷裕浩教授より「ポリ水酸化フラーレンを用いたナノ化学機械研磨加工に関する研究」と題して,水酸化フラーレンを適用したCu-CMP用スラリーによる超平坦化加工プロセスの基本特性と,銅と水酸化フラーレンの化学反応性に基づく加工メカニズムについての講演がなされた.半導体集積回路の多層配線微細化が進むなか,配線部における高度平坦化技術が求められている.そこで水酸基数12〜44の7種類の水酸化フラーレンをそれぞれ分散させたスラリーを作製して銅薄膜を研磨した結果,C6(0OH)36が最も研磨砥粒として優れた性質を有することが実験的に示された.その研磨メカニズムを明らかにするため,スラリーのORP値と研磨特性の関係や反応生成膜の分析を行い,水酸化フラーレンは銅との強い化学的相互作用を有し,パッドによる機械的作用との複合的な材料除去が起きているとの推察に至っているとのことである.

講演後,講演会出席者の半数以上の17名の出席のもと,懇親会にて講師を交えての意見交換や談話がなされた.ナノダイヤモンドおよびフラーレンの機械応用を念頭に企画された研究会であったが,その関心は化学や電気,表面構造にまで及び,材料特性の多様性を感じさせる内容であった.最後に,講演をいただきました講師の皆様に厚くお礼申し上げます.

平田  敦(東京工業大学)

 

▲ Top ▲