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 報  告

 平成23年度第2回研究会 

 

 平成23年度の第2回研究会は,平成23年10月6日(水)に東京工業大学大岡山キャンパスにおいて行われた.参加者数は20名であった.本研究会は,「最新のTEM技術によるカーボン材料研究の新展開」と題してこの分野の第一線で活躍されている4名の研究者の方々を講師としてお招きしての開催となった.今回は収差補正装置を搭載した最新TEMの基礎と応用,さらにTEMを利用したさまざまな研究事例を紹介していただく機会となった.

日本電子(株)の近藤は,「収差補正電子顕微鏡の性能と応用」と題して,収差補正の原理から収差補正装置を搭載したTEMの性能について紹介した.TEMの分解能は今やナノメートルからピコメートルの領域に達し,さらに収差補正を照射系へ構成することで,STEM法の分解能向上および元素分析の検出感度が1桁以上向上することが紹介された.超高分解能観察は超高圧TEMによってのみ行えるある意味特別な実験であったが,収差補正TEMの登場により,原子像観察は誰もが行える一般的な実験となる可能性を強く感じた.

産総研の山本は,「EF-TEM;ナノカーボン研究の有力なツール」と題して,電子線エネルギー損失分光法(EELS)を用いた解析手法とエネルギーフィルタ(EF)を用いた像観察について紹介した.EELS解析やEF像観察はこれまでダイヤモンド結晶中の欠陥解析などカーボン材料の研究に利用されてきたが,近年のナノカーボン物質の生体への影響評価では特に有効な手法であることが紹介された.TEMの利点や優位性からカーボン材料研究のさまざまな場面で,より積極的な利用をすべきとの考えが述べられた.

信州大学の村松は,「2層カーボンナノチューブの合成と物性解析」と題して,最近の成果について紹介した.独自の触媒CVD法により選択的に2層カーボンナノチューブ(CNT)を合成し,その後の熱処理や塩酸処理により高純度化できることを紹介した.また,フラーレンpeapodや金属内包2層CNTを合成し,原子・分子レベルでの挙動観察により,将来のデバイス創製につながるようなデータが得られていることが紹介された.2層CNTは中空部分に分子や原子を内包できるだけでなく,内層の物性を保持したまま外層のみを化学修飾することも可能であり,将来のナノデバイス応用への興味は尽きない.CNTの内外層のカイラリティ制御などさらなる研究の進展に期待したい.

大阪大学の吉田は,「カーボンナノチューブ成長の環境TEMその場観察」と題して,内部に気体を導入できる特殊な環境制御型TEM(ETEM)の開発とその応用について紹介した.あらかじめ薄片化したシリコン基板上に鉄微粒子を触媒として堆積させ,これをETEM内に挿入し,アセチレンと水素の混合ガス雰囲気中で600°Cに加熱することによりCNTが合成される様子をその場観察した例が紹介された.特に鉄触媒からCNTが成長する様子を高分解能像で観察し,触媒は結晶化したFe3Cのナノ粒子であること,また,CNT成長中は常に触媒粒子の構造が揺らいでいることが紹介された.さらに,Fe触媒にモリブデンを添加した場合の効果として,適切な量の添加はCNTの生成量を増加させることが紹介された.CNTの合成では触媒金属の膜厚や粒径制御が重要なポイントとして知られていたが,本研究の進展が均質なCNT合成に重要な知見を与えるものと期待される.CNTの直径・層数・長さ・カイラリティ制御のための鍵となるデータが得られることを期待したい.

今回は,最新のTEM技術として,ハードウェアと実験技術の両面について興味深い研究を紹介していただいた.参加者数はやや少なかったが,活発な議論がなされ,大変有意義な研究会となった.TEMの分解能の向上と観察手法の開発がカーボン材料研究の進展をもたらすと確信させるに十分な内容であった.

 

葛巻  徹(東海大学)

 

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