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 報  告

 平成22年度第2回研究会報告 

 

平成22年度第2回研究会は,「カーボン材料の生成プロセスの最前線」と題して,平成22年11月16日(火)東京大学生産技術研究所にて参加者36名を得て開催された.前半は,グラフェン・カーボンナノチューブの合成プロセスについて,後半はダイヤモンド・DLC膜の合成プロセスに関する講演をしていただいた.

はじめに,大阪大学大学院工学研究科の小林慶裕氏に「結晶性成長核からのナノカーボン形成とその機構」と題してご講演いただいた.まず,熱CVD法による単層カーボンナノチューブ(SWCNT)合成について,通常触媒金属として用いられるコバルトなどではなく,これまで触媒活性がないと思われていた金,銀などの貴金属を用いることによってもSWCNTが成長することが報告された.さらには,ダイヤモンドナノ結晶を用いることによってもSWCNTを合成でき,SWCNT合成においては触媒ナノ粒子の曲率半径に沿って先端キャップが形成され,それが成長核となってSWCNTが成長することが示された.これらはSWCNT合成における「触媒」の役割を問い直す発見であり,構造制御されたSWCNT合成に向けた重要なヒントとなる.さらに,C60フラーレンを成長核に用いることでキャップ構造を制限する試みを行い,現在のところ,合成されたSWCNTの構造制御までには至っていないことが報告された.後半には,機械はく離したグラフェンを成長核とした熱CVD法によるグラフェン層成長についてお話しいただいた.新たなグラフェン層は,もとのグラフェン層上に積み重なるように成長することが示された.そして,それらグラフェン層間には構造上の相関がない乱層構造であることが説明された.

引き続き,「グラフェンとカーボンナノチューブの触媒成長―単結晶基板による高次構造制御―」と題して,九州大学先導物質化学研究所の吾郷浩樹氏にご講演いただいた.グラフェンやSWCNTはエレクトロニクスへの応用が期待されているが,その集積構造の制御には多くの問題が残っている.本講演ではまず,従来は困難とされていたコバルト金属上における大面積単層グラフェンの合成が報告された.合成されたグラフェン膜はコバルト金属の結晶方位に対応してそろっていた.これは成長方向を制御したグラフェン合成の初めての例であり,今後の展開に興味がもたれる.また,金属触媒表面の欠陥に由来する四角形や三角形のくぼみ(ピットと呼ばれる)内部に優先的にグラファイトを成長させることができることも報告された.これもグラフェンの形状制御につながる技術として期待される.後半には,サファイア(α-Al2O3)のr面あるいはa面を用いることで,水平方向に配向成長したSWCNTを合成でき,この配向成長にはSWCNTと基板間相互作用が重要であることが報告された.また,サファイア基板上にステップを導入した場合,SWCNTはステップエッジに沿って成長することが報告された.これら二つの配向制御法を同時に用いることでSWCNTを成長途中で直角に曲げることもできる.

休憩をはさんで,産業技術総合研究所の山田英明氏に「ダイヤモンド合成環境への数値解析の適用事例」と題してご講演いただいた.大面積かつ高速なダイヤモンド成長を実現するうえで,プラズマの各種物理量を明確にすることが極めて重要となる.しかしながら,比較的高い圧力領域で行われるダイヤモンドのCVDにおいて,これらを計測することは一般に困難である.また,装置形状に敏感であるマイクロ波CVD装置の設計において,大型のプラズマを形成するための試行錯誤を実験的に行うことは非現実的である.本講演の冒頭では,このような問題提起がなされ,プラズマの状態を予測する手法としてのシミュレーションの優位性が説明された.プラズマのバルクを記述する方程式系として厳密性(精度)と計算負荷の兼合いが概説され,現実的な解を得るための磁気面という概念や化学種をCH4-CH3系のみに絞るといった大胆な簡略化が適用され得ることが示された.こうした物理・化学モデルの取捨選択により得られた結果は,特異な形状を有するマイクロ波プラズマCVD装置における放電状態を高精度に再現可能であることが示されるなど,十分な汎用性と精度をもった予測が行えることが説明された.質疑においては,原料ガスの分解においては熱解離過程が電子衝突過程よりも重要であるとの指摘がなされ,実験的事実が理論により裏づけされていることが再確認できた.

最後に,豊橋技術科学大学の滝川浩史氏に,「スーパーハードDLC膜の作り方と応用」と題して,ご講演いただいた.DLCの構造を結合と水素含有から4種類に大別し,それらの硬度が金属窒化物,炭化物,酸化物との比較により説明された.応用においては,広く知られている剃刀やペットボトル内面のコーティングに始まり,高級腕時計に適用されている例などが動画とともに示され聴衆の興味を集めた.本講演のトピックである高硬度のDLC薄膜形成プロセスに関する説明ではT字フィルタにおいてドロップレットの除去が効率的に行われること,高いイオンフラックスとエネルギーが得られることにより硬度が向上することなどが実験データをもとに説明された.また,膜の外観が透明になり得ること,そのために膜厚制御により干渉色を自在に制御できるといった特徴と実際の適用例が示された.質疑においては,基材の温度とイオンエネルギーの最適値が示されるとともに,前処理における酸化層除去の重要性が指摘され,実際のプロセス開発に携わる技術者にとって有用な情報が提示された.

今回,初めての試みとしてダイヤモンドシンポジウム直前に研究会を開催した.その甲斐あって遠方からの参加者も得,大いに盛会となった.最後に,講演をご快諾いただいた講師の先生方に厚く御礼申し上げます.

 

岡崎 俊也(産業技術総合研究所)

野瀬 健二(東京大学)

 

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