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 研究会だより

 平成21年度第2回研究会報告 

 

平成21年度の第2回研究会は,「カーボンナノチューブの基礎と実用化研究の最前線」と題して平成22年1月19日(火)に東京大学生産技術研究所において開催された.開催案内の告知から実施まで年末年始を含め約1か月であったため,参加者数はやや少なめで25名ほどであった.本研究会は,カーボンナノチューブ(CNT)の分野において第一線で活躍されている4名の研究者の方々にご講演いただき,CNTの基礎から応用,さらに今後取り組むべき課題までを網羅した内容となった.大阪大の平原は,「透過電子顕微鏡によるカーボンナノチューブの構造評価」と題して,CNTの電子回折によるカイラル指数の決定法といった,透過型電子顕微鏡(TEM)を利用した基礎解析技術から,TEM内でのCNT局所加工のその場観察データに至るまで幅広く紹介した.講演では,冒頭TEMの基本原理などについても触れ,TEMにあまりなじみのない参加者にもその有用性を説いた.最近の成果として紹介していたCNT塑性変形中のカイラリティ変化過程の解析や単層CNT中でのカーボンナノカプセルの挙動解析では実験手法の質の高さを感じさせられた.TEMを観察装置としてのみ使うのではなく,実験チャンバとして使用する手法は,CNTをはじめとするナノ材料の力学物性など多くの情報をもたらしてくれるものと期待される.電子顕微鏡を用いたナノ領域での実験データの積み重ねが,将来,ナノメカニクスなどの新しい研究フィールドを形成する可能性を秘めている.この分野のさらなる進展を期待したい.信州大の林は,「CCVDによるカーボンナノチューブの生成と応用展開」と題して,触媒気相成長(CCVD)法が高純度での量産性や構造制御の観点からCNT合成の最も有効な方法であること,また,その応用分野がスポーツ関連用品から医療・生体材料まで及んでいることを紹介した.CCVD法では二層構造を中心とするCNTが合成されることを報告し,この手法により合成されるCNTはすでに民間企業との連携で量産体制が構築されていることを述べた.CNTの応用が産業レベルまで達しつつあることを実感させられた.また,スポーツ用品をはじめとするさまざまな応用事例のうち,医療分野へのCNTの応用には注目が集まった.人工関節と血管内に挿入するマイクロカテーテルへの応用がそれである.特に,ナイロン製マイクロカテーテルへのCNTの複合は,凝血作用を低減させる効果があり,今後の応用が期待されるものであった.産総研のFutabaは「Super-Growth:Synthesis,Mass Production,and Applications」と題して,近年注目されているスーパグロース法によるCNTの合成の開発現状と応用展開について述べた.数百ppmの水の導入により10分以内でミリメートルオーダの単層CNTの合成を可能にする全自動合成装置の開発は,やはり特筆すべきものがある.CNTによる撚糸材料の開発が行われている現在,極めて魅力的な素材といえる.講演ではスーパグロース法により作製したブラシ状CNTを,低摩耗性CNTしゅう動材料としてモータのスライディング式の電気接点に応用していることが紹介された.長尺かつ単層のCNTであることから,今後さまざまな分野での応用が期待される.(株)半導体先端テクノロジーズの酒井は,「CNTのLSI配線応用と低温高密度成長」と題して,CNTのLSIビア・プラグ配線応用の現状について紹介した.CNTは次世代LSI用配線材料の候補として重要な素材である.その応用に向けて高品質のCNTを高密度で,かつ,より低温で合成する技術が不可欠である.個々の要素技術の確立については一定の成果が得られており,今後の研究・開発方針などある程度めどが立っていることが示された.多大な実験データの積み重ねがうかがえる.しかしながら,低温合成について,特に450°C以下では合成されるCNTの結晶性が低く,品質保持という点で課題が残されている.デバイス用のCNT合成法は複合材料用のそれとは異なり,プロセス的な制約や局所領域への高密度合成などが要求されることから技術的障壁が高い.プロセス技術として確立するためには今しばらく時間を要するものと思われる.

CNTは構造的多様性がもたらす各種物性のばらつきが材料としての応用を難しくしている.この点について,安定した品質で大量合成できる技術が工業レベルで展開されつつあることを心強く感じた.一方で,ナノカーボンが示す多様性により新たな研究・応用が生み出される期待も大きく,今後ますます目が離せない分野であることを再認識させられるものであった.

葛巻 徹(東海大学)

 

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