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 研究会だより

 平成18年度第1回研究会報告 

 

平成18 年6 月30 日,ニューダイヤモンドフォーラム平成18 年度第1 回研究会が,産業技術総合研究所臨海副都心センターで開催された.今回のテーマは,「ナノダイヤモンド」で,合成とトライボロジー応用関連で,4 件の講演があった.参加者は約60 名であり,すべての講演で質疑応答が非常に活発であった.また,ニューダイヤモンドフォーラム会員外の参加者も多く,ナノダイヤモンドという新材料への期待の高さがうかがえた.

初めの講演は,産業技術総合研究所の長谷川雅考氏から「大面積・超低温ナノダイヤコーティング」という題目で行われた.まず,ナノダイヤモンド薄膜の成膜方法の特徴として,マイクロ波を用いた表面波プラズマを用いていること,合成を低い圧力(1 Torr)で行っていることがあげられる.これにより30 × 30 cm2 に均一にナノダイヤモンドを成膜する方法を開発していた.二つ目の特徴は,100 °C 以下という低温での成膜が可能であることにある.このため,被コーティング基板材料に制約がないことが非常に魅力的である.CH4-H2 系にCO を加えた原料ガスでの成膜条件により合成されたナノダイヤモンド薄膜の特性について,ほかの競合材料(SiC,AlN など)との比較がなされていた.非常に平坦で,可視光に対して90%程度の高い透過率があり,非常に硬い膜であることが紹介された.ナノダイヤモンドの特性は優れており,CVD 法でのダイヤモンド成膜では高い基板温度が大きな障害となっている現状が打破されるとなれば,さまざまな応用への展開が期待できそうである.

セキテクノトロン(株)のTarun Sharda 氏は,「Advancedin nanocrystalline diamond」と題し,発表された.本講演でも,大面積への成膜が興味深く,熱フィラメントを用いたCVDにより12 インチのシリコンに合成した膜を回覧し,参加者を驚かせていた.合成には,Ar-CH4 系およびCH4-H2 系を用い,合成圧力により変えていた.さらに,ほかのCVD法による大面積化への可能性に関しても紹介した.また,講演の前半部分ではビジネス展開の観点から見た個々の応用分野への取組み方法についての提案があり,トライボロジー関連やMEMS,生化学分野への応用などナノダイヤモンドの可能性や市場の期待に関しての報告があった.DLCなどに比べて,ナノダイヤモンドは熱的にも安定であり,用途拡大が期待できそうである.

次の講演は,石川県工業試験場の安井治之氏から,「ハイブリットナノダイヤモンド(HND)膜の作製技術とその評価」と題して行われた.DLC コーティング薄膜の硬度の向上を目的に,DLC とナノダイヤモンドの積層膜を作製し,膜特性の評価を行っていた.ナノダイヤモンドは,DLC 成膜と同じ装置内で,RF プラズマを用いたCVD 法により,C2H2 を原料ガスとして用いて成膜されていた.DLC 単層膜やナノダイヤモンド単層膜に比べ,積層膜構造(DLC/ ナノダイヤモンド/DLC)にすることで,硬度,摩擦係数,密着性が向上することが報告された.ナノダイヤモンドとDLCとの積層膜において,DLC の特性向上に寄与する最適なナノダイヤモンド粒径が存在するとのことであった.さらに,DLC ではよく議論される水素の含有量に関しても検討を行い,ナノダイヤモンド中の水素はDLC 中に比べ,3 分の1程度であることを報告した.また,超硬合金にハイブリットナノダイヤモンドをコーティングした工具により,アルミニウム合金を切削した結果についてビデオを交えて紹介し,DLC 膜コーティング工具やコーティングなしの超硬合金工具に比べ,アルミニウムの溶着は観察されず,良好な結果が得られていた.

最後は,上記三講演とは異なり,CVD 法によるナノダイヤモンドの合成ではなく,単結晶ダイヤモンドを破砕することにより作製したナノダイヤモンドに関して「粉砕ナノダイヤモンドの表面改質」と題したトーメイダイヤ(株)の山中博氏による講演があった.ナノダイヤモンド表面を非ダイヤモンドカーボン層に改質することと,ナノダイヤモンド粒子を分散させることの技術課題を解決していた.通常のナノダイヤモンド作製方法では,粉砕により微粒子化したナノダイヤモンドを分級後に焼成し,非ダイヤモンドカーボン層を形成する.より精密な研磨面を実現するためには,この非ダイヤモンドカーボン層が必要であるが,焼成時にナノダイヤモンド粒子が凝集してしまう.そのため,混酸(硫酸+硝酸)処理や,電気炉内での塩素ガスや水素ガス中での熱処理を行い,それぞれ個々の処理やいくつかの処理を組み合わせた試行がなされた.非ダイヤモンドカーボン層を有しつつ高分散状態を実現するためには,塩素ガス中での熱処理後に,水素ガス中での熱処理が有効であることを示していた.ハードディスクドライブのディスクやヘッドの研磨への利用と目的が明確であり,企業の開発らしい取組みが感じられた.

講演の全体を通して,ナノダイヤモンドの技術の進歩に驚かされたというのが聴講者共通の認識であった.ナノダイヤモンドは,魅力的な特性をもっているが,DLC 膜や多結晶ダイヤモンド膜との差別化などが実用化に向けた重要な課題であるように感じた.

山田 貴壽(産業技術総合研究所)

 

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